術後切開創の適切な管理は、創傷治癒の最適化および合併症の予防に不可欠である
手術創の効果的なケアは、創傷治癒の促進および術後創部感染(SSI)や創傷離開(SWD)などの合併症の最小化において極めて重要です。 このケアの中核をなすのが、長時間の貼付が可能なドレッシング材の選定と、円滑な創傷治癒を促進するためのドレッシング交換プロトコル(UWH:Undisturbed Wound Healing)の採用です。
本稿では、国際的なコンセンサスミーティングの成果をもとに、手術創管理におけるベストプラクティス、ならびにUWHを促進するためのドレッシング材の選定およびケアプロトコルについて概説します。
円滑な創傷治癒(UWH)を理解する
円滑な創傷治癒(UWH)とは、手術創が不要な介入や刺激を受けることなく、自然な治癒過程を経て回復することを指します。 このためには、安定した創傷環境の維持が不可欠であり、頻繁なドレッシング交換や外的要因による刺激は、治癒の遅延、感染リスクの増加、患者の不快感につながる可能性があります。
UWHの目的は、創傷が炎症期・増殖期・成熟期といった正常な治癒ステージを円滑に進行できる環境を整えることにあります。
UWHの推進と慣習的なドレッシング交換への検討
従来のドレッシング交換プロトコルは、必要の有無にかかわらず定期的な交換スケジュールに基づいて実施されることが一般的です。 しかし、このような交換は創傷治癒を妨げ、治癒の遅延や停止を引き起こす可能性があります。 創傷部位への干渉は、術後創を外的汚染にさらし、術後創部感染(SSI)のリスクを高める要因となります。
そのため、術後のドレッシング交換プロトコルは、最新の臨床的知見を反映した内容へと見直す必要があります。
また、術後創傷治癒の質を高めるためには、使用するドレッシング材の再評価も重要です。 従来の術後創傷ケアでは、不織布・アクリル系粘着剤・吸収パッドで構成された汎用ドレッシング材が主に使用されてきました。
これらのドレッシングは吸収性が低く、バリア機能が不足している傾向があり、しばしば剥離時に疼痛や皮膚損傷を引き起こします。このタイプのドレッシングは、伝統的なプロトコルや儀式的な実践とともに何十年にもわたって使用されてきました。
円滑な創傷治癒を実現するための戦略的アプローチ
UWHを推進するには、「従来通りの方法で行うべき」という慣習的な考え方に対して再検討する必要があります。 この従来のアプローチでは、吸収性の低いドレッシング材の使用により頻繁な交換が前提とされることが多く、結果として以下のような問題を引き起こす可能性があります。
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医療資材費および医療従事者の作業時間の増加による総医療コストの上昇
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創傷治癒の遅延または中断
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患者の不快感や疼痛の増加
これらを踏まえ、術後ドレッシング交換プロトコルは、最新の臨床的知見と患者中心のケアを反映した内容へと見直す必要があります。
手術創に関するコンセンサス推奨事項
このような課題は、術後のドレッシング管理における改善策を検討するために集まった複数の熟練外科医によって議論されました。 その成果は、「手術創における創傷管理とドレッシング選定:国際外科医会議の報告」として発表されています。
この国際的コンセンサスグループは、円滑な創傷治癒(UWH:Undisturbed Wound Healing)の重要性に加え、術後創傷治癒の最適化に向けたドレッシング交換プロトコルの再考の必要性を強調しました。
これらのコンセンサスミーティングでは、手術創管理におけるベストプラクティスに関する有益な知見が得られました。
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術前最適化:創傷治癒能を高めるために、栄養状態、血糖コントロール、禁煙などの患者因子を評価・最適化する。
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無菌操作の徹底:術中の汚染リスクを最小限に抑えるため、厳格な無菌操作を実施する。
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ドレッシングの適用:病原体の侵入を防ぐため、手術創を緊張なく完全に覆うようにドレッシングを適用する。
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創部の観察と評価:感染兆候やその他の合併症の有無を定期的に評価する。ただし、ドレッシングが健全で滲出液量が管理可能な場合は、不要な交換を避ける。 コンセンサスでは、ドレッシング交換が過剰に行われている傾向があると指摘されており、交換は以下のような臨床的に正当な理由がある場合に限るべきとされている: - ドレッシングの飽和や漏出 - 過度の出血 - 感染の疑い - 創離開の可能性 それ以外の場合は、ドレッシングをそのまま維持し、円滑な創傷治癒環境を保つことが推奨される。
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患者サポート:感染兆候、適切な創傷ケア、創部への不要な刺激を避ける重要性について患者に教育する。 患者はしばしば「頻繁に交換すべき」という先入観を持っているため、円滑な創傷治癒(UWH)の価値を理解することが有益である。 医療従事者は、UWHの根拠と利点を患者に分かりやすく説明し、納得と協力を得るためのコミュニケーションを図る必要がある。
地域特性に配慮した手術創ケアの必要性
これらの一般的な原則は広く適用可能ですが、医療慣行、患者集団、環境要因の地域差を踏まえると、地域に適した手術創管理のアプローチが求められます。
たとえば、高温環境下にある地域では、湿気の蓄積を防ぐために通気性に優れたドレッシング材が推奨される場合があります。 また、文化的背景や患者の価値観・嗜好を考慮することで、ケアプロトコルへの患者の理解と遵守を促進することが可能です。
理想的な術後ドレッシングのプロトコール
世界創傷治癒学会(WUWHS)は、円滑な創傷治癒(Undisturbed Wound Healing:UWH)を促進するために、長時間貼付が可能なドレッシング材の使用を推奨しています。 従来のドレッシング交換プロトコルは、習慣や形式的な手順に依存する傾向があり、臨床的必要性とは無関係に定期的な交換が行われることが少なくありません。
そのため、WUWHSは、定期的な交換という従来の考え方から脱却し、臨床的に必要な場合にのみ交換を行うという思考への転換を提唱しています。 これは、創傷治癒の質を高め、感染リスクや患者の不快感を軽減するために重要です。
さらに、術後の手術創管理においては、患者のニーズや嗜好も重要な要素です。 術後創傷には特有の臨床的要件があるため、創傷の種類や状態、患者個々の背景や希望を考慮した適切なドレッシング材の選定が求められます。
UWHにおけるドレッシング選択の役割
UWHを実現するためには、適切なドレッシング材の選定が不可欠です。 理想的な術後用ドレッシング材は、以下の要件を満たすべきとされています:
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汚染防止:外部病原体に対するバリア機能を有し、術後創部感染(SSI)のリスクを低減する。
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滲出液管理:創傷からの滲出液を効果的に吸収・保持し、浸軟を防止するとともに、湿潤環境を維持する。
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湿潤環境の維持:創傷床を適度に湿潤に保ち、細胞活動を促進することで治癒を支援する。
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交換頻度の最小化:長時間の貼付が可能で、頻繁な交換を避けることで創部への刺激を最小限に抑える。
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患者快適性の向上:装着時の快適性が高く、貼付・除去が容易で、創部および周囲皮膚への外傷を軽減する。
これらの条件を満たす高機能ドレッシング材は、長時間の保護と快適性を両立するよう設計されており、術後創傷管理において理想的な選択肢となります。
円滑な創傷治癒:手術創ケアの目標
円滑な創傷治癒は、術後後創管理における中心的な目標として位置づけられています。 適切なドレッシング材の選定と、UWHを重視したベストプラクティスの遵守により、創傷治癒に最適な環境を整え、合併症のリスクを低減し、患者アウトカムの向上が期待されます。
さらに、継続的な教育、患者との協働、地域特性の考慮は、効果的な切開創管理戦略を構築するうえで不可欠な要素です。
