術後の切開部ケアは、創傷治癒を最適化し、手術部位感染(SSI)や外科的創傷裂開(SWD)などの合併症を最小限に抑えるために極めて重要です。ケアの要点は、長時間の装着に適したドレッシングの選定と、創傷治癒プロセスを中断しない(UWH: Undisturbed Wound Healing)ドレッシング交換プロトコルの採用にあります。本稿では、国際コンセンサス会議の成果をもとに、切開部ケアおよびドレッシング選択、UWHを促進するためのベストプラクティスに焦点を当てます。
創傷治癒プロセスを中断しない創傷管理の理解
創傷治癒プロセスを中断しない創傷治癒とは、外科的切開部が不必要な干渉や影響を受けることなく、自然な治癒過程をたどることを指します。頻繁なドレッシング交換や外的刺激は、治癒プロセスを妨げ、感染リスクの増加や患者の不快感につながる可能性があるため、安定した創傷環境の維持が不可欠です。目標は、創傷が通常の治癒過程を効率的に進行できるような条件を整えることです。
治癒プロセスを中断しない創傷治癒の促進と、従来型ドレッシング交換プロトコルの見直し
従来のドレッシング交換プロトコルは、交換の必要性にかかわらず、定期的なスケジュールに基づいてドレッシングを交換することを前提としています。このような慣行は、創傷治癒過程に不必要な干渉をもたらし、治癒の遅延や停止を引き起こす可能性があります。創傷部への過度な介入は、術後創傷を汚染のリスクにさらし、表在性手術部位感染(SSI)の発症率を高める要因となります。したがって、術後のドレッシング交換プロトコルは、最新の臨床的知見に基づき、見直される必要があります。
さらに、術後創傷治癒は、術後被覆材の選定を再評価することで、改善が期待されます。従来の創傷管理では、アクリル系接着剤と吸収パッドを組み合わせた不織布製ドレッシングが広く使用されてきましたが、これらは滲出液の吸収性やバリア機能に乏しく、皮膚障害や疼痛の原因となることが少なくありません。このようなドレッシング材は、従来の慣例に基づくプロトコルや形式的な運用のもとで長年使用されてきましたが、近年の創傷管理に関する臨床知見を踏まえ、再評価が求められています。
創傷治癒プロセスを中断しない創傷治癒を実現するための臨床的アプローチ
UWHの促進は、吸収性の低いドレッシングにより頻回な交換を余儀なくされる「従来通りの方法」に対する再検討を意味します。創傷管理の全体像すなわち総治療費、患者の快適性、治癒効率などを包括的に捉えると、従来の術後被覆材交換プロトコルは、汚染リスクの増加、材料費や医療従事者の作業時間の増加によるケアコストの上昇、治癒の遅延や阻害、さらには患者の不快感や疼痛の増加につながる可能性があります。
では、術後のドレッシングプロトコルはどのようにあるべきでしょうか。術後ドレッシングに求められる要件とは何でしょうか。
切開創管理に関するコンセンサス推奨事項
術後のドレッシング管理における課題への対応策を検討するため、経験豊富な外科医による議論が行われました。結論は、 外科的創傷における切開創管理とドレッシング材の選択:外科医の国際会議からの調査結果として発表されました。
国際的なコンセンサスグループは、創傷治癒プロセスを中断しない創傷治癒の重要性に焦点を当てるとともに、創傷治癒を最適化するためには術後ドレッシングプロトコルを再考する重要な必要性も強調しました。
コンセンサス会議では、切開創管理におけるベストプラクティスに関する有益な知見が多数得られました。
- 術前の最適化: 栄養状態、血糖コントロール、禁煙などの患者因子を評価・調整することで、創傷治癒の可能性を高めます。
- 無菌環境の維持と操作の適正化:手術中は厳格な無菌技術を遵守し、術野の汚染リスクを最小限に抑えます。
- ドレッシングの塗布:切開部に過度な張力をかけることなく、創傷全体を確実に覆うようにドレッシングを塗布し、病原体の侵入を防止します
- モニタリングと評価:感染やその他の合併症の兆候について創傷を定期的に観察します。ただし、ドレッシングが損傷なく保持され、滲出液の量が管理可能な範囲である場合は、不要な交換を避けるべきです。コンセンサスでは、ドレッシングの交換は、飽和状態、漏れ、過度の出血、感染の疑い、創傷裂開の可能性など、臨床的に正当な理由がある場合に限り実施すべきであるとされています。それ以外の場合は、ドレッシングをそのまま維持し、創傷治癒を妨げない環境を保ちます。
- 患者教育:感染兆候のサイン、適切な創傷ケアの方法、創傷部位への不要な刺激を避ける重要性について患者に情報提供、指導を行います。多くの患者は、ドレッシングの交換頻度に関して習慣的な考え方を持っており、過度な交換が望ましいと誤解している場合があります。創傷治癒プロセスを中断しない創傷治癒の概念とその臨床的利点を患者に理解してもらうことで、より良い治癒環境の構築につながります。臨床医は、UWHの理論的根拠と実践的意義を患者に分かりやすく説明し、適切なケア行動を促す責任があります。
地域特性に基づく考慮事項
これらの一般的な原則は広く適用可能ですが、医療慣習、患者層、ならびに環境要因における地域差は、切開創管理に対して地域に適応したアプローチの必要性を示唆しています。たとえば、高温多湿な地域では、滲出液の過剰な蓄積を防ぐ目的で、通気性に優れたドレッシング材が選択される傾向があります。ケアの方針を患者に受け入れてもらうためには、文化的背景や個々の価値観・希望を考慮することが重要です。
理想的な術後ドレッシングプロトコル
世界創傷治癒連合(WUWHS)は、創傷治癒プロセスを中断しない創傷治癒を促進するために、長時間の装着が可能なドレッシング材の使用を推奨しています。従来のドレッシング交換プロトコルは、定期的な交換スケジュールや慣習的な手順に依存している場合が多く、UWHの実現には、こうした慣習的・習慣的な交換から脱却し、臨床的必要性に基づいた柔軟な交換判断への意識転換が求められます。
また、ドレッシング交換の頻度を見直すだけでなく、患者個々のニーズと希望を尊重することも重要です。術後切開創の管理においては、創傷の種類や状態だけでなく、患者の生活背景や希望に応じて、最適なドレッシング材を選定する必要があります。
UWHにおけるドレッシング選択の役割
UWHを支援するためには、適切なドレッシング材の選定が極めて重要です。理想的な術後ドレッシングには、以下の特性が求められます。
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柔軟性と伸縮性:患者の可動性を妨げず、皮膚への過度な牽引や水疱形成(特に膝関節部位など)を防止します。
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確実な固定性:消毒直後の創部にも、塗布時に皮膚へ安定的に密着し、ズレや剥離を防ぎます。
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高い吸収性:滲出液を適切に管理し、創傷環境を清潔かつ湿潤に保ちます。
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低刺激性:過度の粘着性がなく、剥離時の皮膚損傷や水疱形成のリスクを軽減し、皮膚を保護します。
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防水性:優れた密閉性とバリア機能により、患者がシャワーを浴びることを可能にします。
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密着性:創部とドレッシング材の間にデッドスペースを生じさせず、感染リスクや滲出液の滞留を防ぎます。
これらの要件を満たす先進的な創傷被覆材は、長時間の装着に伴う快適性と創傷治癒環境の維持を両立しており、術後管理における理想的な選択肢といえます。
治癒プロセスを中断しない創傷治癒:現代における術後切開創管理の目標
治癒プロセスを中断しない創傷治癒は、現代における術後切開創管理の主要な目標の一つです。適切なドレッシング材の選定と、頻回な交換を避けた創傷治癒過程を重視したベストプラクティスの遵守により、医療従事者は最適な創傷治癒環境を構築し、合併症のリスクを低減し、患者予後の改善に貢献することが可能となります。
さらに、継続的な医療従事者の教育、患者の積極的な関与(エンゲージメント)、および地域特性の的確な把握と対応は、効果的な切開創管理戦略を構築する上で不可欠な要素です。

